中古マンション探しからリノベーション。S様が故郷で見た理想の“和”を求めて
東京都三鷹市新川/1979年11月築/RC造4階建/31.53㎡
東京都多摩地域東部に位置する三鷹市。区に隣接しながらも、玉川上水や井の頭恩賜公園など自然も多いため、S様のお宅周辺でも「郊外」といったゆるやかな時間が流れます。さらに武者小路実篤や太宰治などといった多くの文化人が住んだイメージから、「大正・昭和ロマン」の薫りもどこか漂います。今回のリノベーションテーマも、それに違わず、ずばり「和リノベ」。北陸地方に住み、骨董や和物が好みだったお施主様が、東京に新たな新居を探す。そんなS様に相応しい住まいづくりのため、物件探しからお手伝いさせていただいたCuestudio。インタビューへ向かう道すがら、そんな風景を眺めていると、この地域、この建物を選んだ理由が、あらためて解かるような気がしました。
┃“地方”から“都心”へ移り住む。マンション購入で憧れの「和リノベ」を実現
Cue:まずはじめに、以前の住まいのお話から伺わせていただきたいのですが、以前は新潟に住まわれていたんですよね。
S様:そうです。でも家はごくふつうの家でしたよ。骨董や和物は趣味という感じで集めていました。
Cue:新潟と東京では、勝手がちがう部分もあると思います。不安はありませんでしたか?
S様:親戚が東京にいるので、訪れる機会は頻繁にありました。物件を探してもらって、このマンションに決めたのもそういう諸事情を含めてです。それとやっぱり、集めていた家具を心置きなく並べられる部屋に住みたかったんです。新潟で眠らせておくのはもったいなくて。ここならできそうだなっていうイメージを持てたので。
Cue:打合わせに入る段階で、家具や和物の写真を送ってもらいましたよね。どれも立派なものばかりで驚きました。と同時に、なかなか取り入れたことのないテイストだったので、これは心してかからないとな、と思いました。
S様:実は、実家が明治から続くホテルを営んでいるんですよ。ずっとそういうものを当たり前に見慣れていたから、どこに何を置くか、自然と気にしてしまうんですね。
Cue:それはもう完全に「老舗」の域ですね。どうりで手ごわかったわけです(笑)。
S様:WEBサイトを拝見させていただいていて。たしか、まず最初に「御社がこれまで行ってきたリノベーションとは、かなりテイストの異なったオーダーをするつもりですが、よろしいですか?」とお話させてもらいました。
Cue:大変でしたけど、テーマが明確なので、やりがいがありましたよ。リノベする際、多くの場合は、畳や襖は取り払って、フローリングやクロゼットにしちゃうんですよ。それを残して「主役」にするというのはとても新鮮でした。今回、S様の家具やセンスがなければできなかったケースだと思うので、本当に勉強になりました。
S様:そういってもらえると嬉しいです。
┃リノベだからこそ悩む「古民家風」の表現
Cue:では次に、内装についてこだわった部分などのお話に移りたいと思います。「古き良きお部屋」というテーマをもう少し具体的にお話いただけますか。
S様:古き良きといってもいろいろあると思うんです。わたしの場合どちらかというとちょっと渋枯れたというか、「古民家風」の黒艶っぽいのが好みだったので。そういう内装にしたいと思っていました。
Cue:柱、梁、長押など、既存を残しつつ、塗り替えてみると、またちがった存在感が出ますよね。
S様:空間が引き締まった感じがしていいですね。
Cue:他にはありますか?
S様:天井とRC梁の仕上げとか、サニタリー床の柄とか。特にRC梁のカラーはどうするか、ああでもないこうでもないと、かなり意見を出し合った憶えがあります。
Cue:そこはたくさん悩んで時間をかけましたね。柱に合わせて濃くするのか、それとも天井のほうに合わせていくのか……。
S様:ええ。わたしは住んでいる今でも悩んでいます(笑)。結果、今の茶色になりましたけど。黒っぽい感じだったらどうだったんだろうとか、ふと想像したりしていますよ。
Cue:実際にやってみて良かった点・悪かった点などはどうでしょうか?
S様:キッチンにグリルをつけなかったのは今になって後悔しています。お魚を食べたくなって、そこで「ああ、そうだ」と気づきました。お魚用のグリルパンを買って焼いています(笑)。
Cue:そこはコスト面、サイズ面の兼ね合いですよね。最近の若い人の中にはいらないという意見も多いんですよ。今度からお魚が好きか、念入りに確認したいと思います。
S様:機能的な面でいうと、収納スペースがちょっと物足りないかなと感じるときがあります。
Cue:収納は、もともとあった押入れ・物入れに加え、シューズボックス、パントリー棚、ダイニングの稼動棚などを増やしました。
S様:購入時と比べて倍以上に増えているので、助かってはいるんですけれど……。どうしてもキッチン周りの動きがスムーズにいかなくて。
Cue:料理は頻繁に出したりしまったりを繰り返しますものね。
S様:そういう意味では、ホテルやかつての家の感覚に慣れすぎているのかも知れません。親戚の集まりとかで、料理を大人数にいっぺんに振舞ったりするでしょう。
Cue:そうですね。その土地ごとに「食卓の風景」というのはありますね。その辺りは、地方と都市の食文化の違いなどにも関係してくるので、細かく追究してみると面白いかも知れないですね。ちなみに、キッチン戸棚を追加することはできますが、そうすると今度は窓が少し苦しい感じになってくるかと思います。
S様:気持ちの良い窓だからそれは悩みどころですね。もう少し暮らしてみて、それから考えてみますね。
Cue:押入れですが、シーンによっては使いづらいこともあります。戸を開けるとハンガーパイプがあるなど、意匠性は壊さずに、見えないところで現代的な工夫はさせてもらいました。
S様:物入れにも稼動棚を入れてくれました。趣味のものをしまうにはぴったりなのですごく助かっています。
┃中古マンション購入で手に入れたセカンドライフ。シニア世代からはじめる豊かなリノベ暮らし。
Cue:お気に入りの家具や骨董を並べられるような住まいをテーマにリノベーションをされたわけですが、実際に住んでみてどうですか?
S様:住み替えて本当に良かったと思います。押入れにはまだまだ並べたいものがあるので。
Cue:本当にたくさんあるんですね……! どうレイアウトしていくかがこれから楽しみですね。
S様:季節によって敷物を変えるとか、自分で縫うとか。そういう意味でも、毎日の楽しみが増えて、転居の不慣れさもほとんど気になりません。このお部屋のおかげで、この年齢になって毎日をとても新鮮に感じているんですよ。
Cue:たしかに、お子さんが家を離れて、年齢的にも定年に差しかかり、という世代の方などには、リノベーションはいろいろな意味でちょうど良い選択肢ですよね。
S様:今までがむしゃらに働いてきたけれど、ようやく一段落着いた。少し余裕も出てきた。じゃあ長年住んで傷んできた家にそろそろ手を入れようか、という人はきっと社会的な動きとして、今後増えていくんじゃないかしら。
Cue:あるいは今回のS様のように、もっと暮らしやすい条件の物件に転居しちゃってもいいわけですものね。
S様:そうですね。この年齢だからこそ、こういう住まいでこういう暮らし方ができるんだなあとあらためて実感しています。
Cue:思い切り趣味を満喫できる暮らしって、50代~60代の定年を意識し始めるシニア世代の方にとっては、本当に理想的だと思います。
S様:今は照明を変えたくなってきていて、落ち着いたらアンティークショップや骨董屋を回って探すつもりです。
Cue:ペンダント照明なら、あえてロープが2mくらいあるものにして、フックに引っ掛けて垂らすような感じにすると、レトロな感じが出ていいかも知れませんね。
S様:ええ。もし気に入ったものが見つかったら、ぜひまた見にいらしてください。せっかくだから、今度は料理を振舞います。
Cue:料理まで! それは楽しみですね。ぜひまた伺わせていただきます。
(※後日談:あらためてお招きいただき、今度は担当者揃ってお伺いさせていただきました。本当に美味しい料理をたくさんいただきました。心からお礼申し上げます。)
所在:東京都三鷹市新川
築年数:1979年11月
構造:RC造4階建
占有面積:31.53㎡
リノベーション完了:2016年5月
今回のお部屋を担当したスタッフ